みんな誰かの大切な女の子

若い頃にいなくなった妹を探している刀匠の話。
ネームレスですが真剣少女が死んでいます。いろいろ注意。

2023-04-22 05:48:29
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〇ちゃんが死んだ。私からその報告を受けた刀匠さんは瞠目して、黙って部屋を出ていった。私は刀匠さんの背中を追いかけた。真剣少女が死んだ時、遺体の状況は大社の回収部隊が来るまで保存される。もう日付は変わっていたが、彼女の遺体は私が見た最後の場所にあって、当番の子が焚いている火が離れたところに見えた。刀匠さんは見張りの子が松明で照らした〇ちゃんの横に座り込んで顔を覗き込んでいた。〇ちゃんは刀匠さんに懐いていたし、刀匠さんも〇ちゃんのことを可愛がっていたから、私はなんと声をかけたらいいのかわからなくて、少し離れたところでそれを見ていた。やがて刀匠さんは立ち上がり、私の方へ向かってくる。
「あの、」やっとの一言を絞り出すと、刀匠さんはたった今私に気づいたという感じで、少し皺のある目元を和らげた。
「来ていたんだね。大丈夫、違ったから」
「え?」
そのまますれ違って屋敷の方の闇に消えてゆく後ろ姿を見送った。違う? どういうことだ? 振り返り、〇ちゃんの方を見ると、傍らに松明を掲げたままの見張りの子がこっちを見つめている。違う、刀匠さんの消えた方を、眺めている。いつもはにこにこと穏やかに笑っていることが多い人なので表情の抜け落ちた顔にゾッとした。私が見ていることに気づくと彼女はいつものように笑いかけてくれ、胸を撫で下ろす。手招きされ近寄ると、おもむろに〇ちゃんの顔の布がゆっくりとその子の手によって払われる。――私の知っている〇ちゃんの顔ではなかった。驚きで声が出せずにいると、彼女は言う。「死んだ時は術式が解けて元の顔になるんだよ。あのひとは徴兵された妹の顔をああやって探してるの、馬鹿なお兄ちゃん」その冷たい声が耳にこびりつく。顔をあげられない。

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